Mana kunchi no heya
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文章書き、食べ物、写真、脳性まひ、希望、夢、前向き、介護職員、ヘルパー、電動車いす、散歩、パソコン、ホームページ作成、ラーメン、うどん、握り寿司、長野県、喬木村、不自由さのないマイナス面をプラスに持っていく生き方のページです。


 子ども本を読まないのに なぜ書けるの? 子ども

 2024年4月

自宅の浴室は、手すりだらけである。ホーローユニットバスでも淵が高く、股を広げて片脚支えになると、バランスとりが難しく、床の滑りやすさお風呂も手伝う環境下だった。新築のころ「これなら万全」と自慢顔で、通路を這うように設置された高欄(こうらん)を眺める。それはまだ、身体が柔らかな証拠であり、行き着く直前のできごとを回想したい。2018年のある日、浴槽に沿った壁へ設置されたバスコントローラ機器の角に、頭部をぶつけ頭皮を2センチくらい切った。出血する。「これはいけない。早く風呂から出なくては」。大きな物音に驚いた母は、脱衣場で真っ裸の私を叱りながら、組合内の近所宅へ駆け込む。しばらくして、その家の奥さんと息子さんが現れ、傷口の応急手当てと、バスタオルで冷えた身体を拭いてくれた。入浴時の苦い体験は、身体機能の低下を自覚する機会となる。


令和6年3月上旬、ショートスティ施設でいつもように、介護スタッフにお風呂に入れてもらう。木製の「青森ひば風呂」は大と小が一つずつあり、今回は大きな浴槽にお湯が張ってある。この浴槽は、ヒノキチオールという物質が含まれて、保湿・抗菌・リラックス効果があるほか、コロナウイルスの増殖についても研究が進められていると聞く。「きょうはこっちなんだね」と指さしたら、にっこり笑みを浮かべたS君。数カ月連続で小さいシャワーお風呂に入っていたから、少し身構えをしてしまう。現在、入浴介助ができる3人のうち、大の湯船に入れるのが得意なスタッフはベテラン一人だけ。私の入浴手助けに彼は、自信を持っていたかは分からない。電動車いすから背もたれのない木の腰掛けに座ると、はじめにシャワーを浴び、頭から身体全体を洗う。両脚を持ち上げ、さらに背中を支えられながら、ゆっくりお湯に浸かる。ここまでが、前半の入浴全介助の進行状況だ。動画を逆再生するような後半に入ると、不安になりそうな動作が待ち受ける。車いす移乗時は、常に前かがみとなりバランスを保てないときも・・・。上半身はガードされていても、床に両足がつかず、重心が前に傾くと、頭が下がり気味になってしまう。


必死に私の身体を抱えていた。迷わずS君に告げる。「もう一人を呼んでほしい」。もはや姿勢を立て直し、最後の車いす移乗を試みるすべはなかった。のち耳に入る。「ごめんなさい。あわててしまった」。入浴介助のあと、利用者を自宅へ送る仕事が待ち構えていたらしい。つらかったときスクールのことを尋ねたら、お風呂や移乗で失敗した思い出だという。彼は、その場面の思いを言葉で表してくれた。「どうしていいか、いたたまれない気持ちになった」。もしかすると、この日、つらいできごとに、私の入浴がリスト入りしていたなら、大変申し訳がない。S君との出会いは13年ほど前、隣村の小学校だったと思う。当時、福祉講演会の形で複数の小中学校に出かけ、生きざまや思いを語るチャンスがあった。多くの子どもたちの中で、彼の面影にたどり着くのは不可能である。しかし、再びめぐり会って今度は、生活の支援をしてもらう立場に変身した私。若い介護スタッフに囲まれ、施設と自宅の両方で暮らせる幸せをかみしめたい。


「何でもできる自分が助けてあげなきゃ」。S君の胸の内はいつもここにある。中学の部活で腕を脱臼してしまギブスい、手術をするため入院生活を余儀なくされた。医療現場で働く人たちに注目した彼は、同じ道を目標とするが、家庭の事情もあって模索しながらも、職種で内容が近い介護を選んだと話す。「その利用者さんに携わった一人として、自分の名前を覚えてもらったときです」。仕事の中で、一番のオアシスだと笑みを浮かべる。一方で、利用者の気持ちに迫ろうとしている。「『いままでできたことができなくなった』と、悲痛な声を聴いて、どれほど辛いのか想像を絶するものがあった」。彼はきょうも(利用者の)当たり前のことができないという、大きな課題に立ち向かおうとする。


介護スタッフ・女性「多くの人に絶望感や敗北感を感じされる、それが機械浴です」。「ケア・プロデュースRX組」代表、介護アドバイザーの青山幸広先生が、著書「Q&A 家庭に笑顔をとりもどす!青山式楽ワザ介護入門・第6章さっぱり、のんびり、入浴の楽ワザ介護」で、読者に説明する。脳梗塞後遺症を背負う男性は、38歳の若さで施設生活をはじめた。介護士の若い女性らをナースコールで呼び、怒りつけていたため、問題利用者扱いにされて相談を受ける。「機械のお風呂に入れられ、女性の介護スタッフにお尻を洗ってもらう。俺はもうダメ。終わりだ」。男性によく話を聞いてみると、施設での入浴が当たり前の生活から脱出していた。機械浴に入るのが楽しみなおばあさんも、慣れてしまっただけで、普通のお風呂が一番に違いはない。「手足の力が衰えても、環境の工夫、介助する人の技術さえあれば、だれでも家のお風呂に入ることができます」。青山先生の心と技の介護術が光る。分かりやすいテキストであり、家庭で介護する人には手元に置いておきたい一冊だ。


ショート期間も残すところ、あと1日となった前星日の夜、S君が私の横に近づき、ノートパソコン画面を覗いて一言ぽつり。「何を見ているの」。二人の目を釘づけにしたのは、NHKオンデマンドの無料配信「ドラマ・『星影のワルツ』」だった。東日本大震災の津波で明暗を分けた夫婦を基に、両親の行方を心配する娘とその夫の姿も取り上げている。奇跡に助かった主人公が、相棒の面影に苦しみを味わい、やがて被災者として立ち上がっていく。変わり果てた海上の被災地で、千昌夫の『星影のワルツ』を歌い、災害の恐ろしさを視聴者に伝えた。「もう時間が遅い。そろそろ休みたい」。そう言いながら、彼の気持ちに反するように、私はノートパソコンの電源を切ってしまった。


自宅に帰ってから、S君がメールをくれる。「『星影のワルツ』を見ました。休みの日は時間が空いているので、素敵な配信があったら、また教えてください」。ショートスティで、介護スタッフと一緒にドラマを見るのははじめであった。「自分に子供がいたら、どんな感じかな」。どうにもならない想像に、一瞬陥ってしまう。いや、独身なので、考える範囲が広がるのかもしれない。入浴で身体を洗ってもらっているとき、同性ならではの言葉が出てくる。「俺もここがかゆいよ」。とても素直で、ストレートスマートスピーカーな表現だと思う。そして介護をする側でも、衣類を脱いで裸同士のおつき合いができたらと、当然無理な希望を持つ。無線式外付けスピーカーをネットショップで注文、ショート施設先を配達あてに指定。包囲箱から取り出し、ノートパソコンと接続する手伝いをS君に頼む。「いい買い物をしたな。ボリュームつまみの側面を連続2回押すとつながるよ」。音が鮮明に聞こえた瞬間、彼の言葉の鋭さを思い知った。


ショート施設の介護スタッフのうち、半分は30歳未満の男の子と女の子たち。どのスタッフも、真剣な顔と笑みを浮かべ、利用者と向き合っている。接しながら直接得るもののほかに、研修の講師として訪れる青山幸弘先生の教えが、彼らをより成長させていく。実践と経験が大切な介護だから、若さが飛躍しそうだ。がんばろう20代前半のS君は力強く語る。「看護師、医療関係の資格にチャレンジしたい。けれど、介護の仕事から離れることはない」と、きっぱり。そんな彼が愛おしく、これからも陰ながら応援していきたい。

2024/4/26

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