「どうすればよいのか」。一日の暮らしの中で、こんな問いかけを自分にしている。お決まりの悩みとは、地味な事柄だ。「ごはんをこぼさす食べるには…」「腰痛にならないようにするには…」「排便があるか」。わが身のことなのに、歯がゆい気持ち。介護保険の第2号被保険者になって20年が過ぎたある日、入院中に医師から脊柱管狭窄症と診断された。ちらっと、ネット検索をしてみる。「頸椎・胸椎・腰椎」。三拍子そろいの、損傷がかかわりを持っていると分かった。たとえば、腰椎だけでも、総じて脊椎の老化現象にあてはまるらしい。自分にとっては特定疾患となる症状が、百点満点に近い形で認定を受けたであろうか。
私たち人間は、脊椎動物の仲間である。脳と背骨がつながっていれば、蛇類・鳥類・魚類から巨体な象までも、みんな相棒みたいなもの。裏を返すと、ズーノーシス(人獣共通感染症)などのウイルスや、脊椎および脊髄の病気にかかることがあるらしい。人に近い猿が老年を迎えたなら、人間界の介護保険・特定疾患に罹患する可能性がないとは言えない。腰痛を感じるようになった20歳過ぎ、諏訪地方にある障害児の医療、リハビリテーション施設を訪ねた。腰の痛みは、椎間板ヘルニアだと分かり、コルセットをつけるように指示を受けたが、おなかの圧迫感が気になり、装着を怠る。このとき、すでに脊柱管の異常が確認されていた。20数年後、左側肩甲骨骨折のリハビリで、再び同施設へ行ったところ、意外な言葉を耳にした。「残念ですが、成人を受け入れる病床はなくなりました」。よい回想ではないが、身体を大切に…という教訓を得たと感謝したい。
令和3年、生活の中から気づく。「C文字に沿うかのように、肋骨の下から腰にかけて、身体が右側へ大きくカーブをしていた。皮膚と筋肉は3重くらいの、しわ寄せとなっている」。自宅の洗面台やショートスティの脱衣 室で鏡に向かうと、背筋が寒く震えたまま。このスタイル、どうにかならないかと、あきれてしまう。正真正銘の変形性腰椎症か。容姿の異変には、相当長い時間を要したに違いはない。60歳で、寝たきり状態の暮らしを3年過ごした結果、わが身をどこかへ置き忘れてきたかも。養護学校寄宿舎生活で、いまの自分と、姿を照らし合わせしまいそうな先輩を思い出す。「身体が曲がっていて、大丈夫なのか」。気遣うというよりも、恐ろしいと思ってしまった。現在も変わりなく、元気でいると信じてやまない。介護スタッフが心配顔になるのは、自分がベッドに横になったときだ。「声が小さくなって聞こえないんですが、大丈夫ですか」。額から冷や汗がにじむと、腰痛は最高潮に達する。1分足らずの苦しさだが、早く痛みが引けてほしいと願うありさま。普通の話ではないので、痛み止めを服用するほどでもないか。
腰痛対策はこうだ。「①パソコンは根詰めしないで、途中で休憩する。②天候や曜日に関係なく、夕方から夜は要注意。③ときどき、電動車いすの座り方を変えてみる。④ベッドで寝返りを打つ。⑤腰部の筋肉を鍛えるトレーニングを行う」。この5つの決まりを心がけていきたい。脊柱管の変形で、排尿・排便障害が起こるともいわれる。自分の例だと、気が緩れば、おしっこが自然に流れる状態で、排便の方は普通に出るが、便意を覚えたら、そのチャンスを逃さないことが大切だと思う。近ごろ、ヤクルトを飲みはじめるようになり、便通がよくなった。同時に軟便が気になり出す。そのランクは紙一重だろう。排便スタイルは、電動車いすから少しお尻を上げると、おなかがスッキリする。誰でも同じことで、快便のあとは食事がおいしい。浣腸液に頼らない生活を確立していく。
電動車いすに乗って食事を摂っている。左上下半身まひプラス、首の固定術を背負う中で、決して楽なランチスタイルではない。テーブルの高さによっては食べづらくなってしまいがち(食べづらいとは、ごはんやおかずをこぼしやすいなるという意味)。車いすの乗り方や体調次第では、思わぬほど食べ物を落としてしまうことも。毎日三度、食事のこぼし方が、身体の状態を表すバロメータともいえそう。だから、こんなときはニワトリさんを連れてきて、床に落ちたごはんを食べさせてあげたい。
食べ物以外のみそ汁やラーメンのスープ、唾を飲むと、たまにせき込んでしまう。姿勢が悪かったり、飲み込む力が弱かったときに起こるのか。若いころ、よく耳にした。「ストローで日本酒を吞むなんて、大丈夫ですか」。場合によっては、蒸せたと記憶をしている。が、問いかけた人は、アルコールのまわり方を心配していたんだろう。そこで、胸推との関係を探ったが、腰椎の症状と等しかった。だから気になるところは、頚椎や嚥下の範囲に相違ない。「食べる(飲み込む)練習をすることです」。手術担当だった、医師からのアドバイスを尊重したい。
2023年の夏盛りに達したころ、一つ年上の友人と、メールのやり取りを再開する。「医師から頚髄症の手術を勧められ、決断ができずにいるんだ」。施設で車いす生活をし、首の痛み、手足のしびれ感があり、排便は浣腸をしなければならないという。経験者として、どんな言い回しができるのか迷ってしまう。「人それぞれだからな…」としか、返事をしていない。医師以外、誰からもアドバイスまたは相談をしようとはせず、手術台に上った自分。友人はいずれ、自ら答えを出せると思う。みんな悩みながら、懸命に生きようとしている。
利用中の短期入所施設でも、背骨が曲がってしまった高齢者を目にする。明らかな老化現象で、誰でもなり得ることは確かだ。年齢が介護保険第1号被保険者に近づくほど、自分の将来を心配してしまう人はいるはず。そんな思いを抱いているときは、近くにいるお年寄りと向き合うのはどうだろうか。「お元気ですか」。問いかければ、何かの返事がもらえるかもしれない。自分もまた同様に、心がけたいと思う。
今秋10月末、ショートスティから帰宅すると、障害福祉サービス再認定の通知が、村役場から郵送されていた。障害区分は、すべてのサービスが利用可能な「区分6」という結果。介護保険が優先だから、現実を素直に受け止め、気持ちだけは前向きに歩みたい。一日の暮らしから今回、生き様の一部をまとめてみた。ご先祖様からの財産を受け継ぎ、自宅生活が続けられることは幸せそのもの。大いに一人暮らしを楽しみたい。人生は自分で決めるものだと確信する。
2023/11/28
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