時は2年前の11月、退院が迫ったある日。「宮脇さんにリハビリの継続が必要だ。自宅は訪問介護と訪問リハビリ、ショート先でも、機能回復訓練を受けられるところがよい」。医師の一言だった。その通りだと思っていた。
身体にはいつも緊張があり、筋肉は硬直している。左肩や手首と左足の膝、足首はカチカチで屈伸困難。自力で用を足せず、尿瓶を充ててもなかなか出ない。膀胱の筋肉が緩むのは、ほっとする安心タイムのときだ。力むと何とか排便はできるが、緊張のプラス面だろうか。だから、おむつがとれない。何たら恥ずかしいありさまだ。脳性まひ後遺症に加え、頸椎と腰椎を痛めたことの恐ろしさを再確認。ここを起点とし、介護保険を有効活用しようとしている。
「介護施設ぽっくない、自由な生活ができる。ちゃんとトイレに行き、機械浴ではなく木の浴槽に浸かる」。行政指導にのっとりながら、個性あるキャッフレーズを前面に出すショートスティがある。
10数年前、村役場の駐車場で不慮な事故に遭った際、自宅の生活が大変だろうからと、介護会社の所長さんが、わが家へ飛び込んできた。「私のところで休んでください」と言われ、居合わせた母と一緒に頭を下げる。3泊4日で帰宅したが、元気づけてもらう。 以来、障害福祉サービ ス給付金や自費により、親子でも施設利用をさせてもらった。この期間、忘れられない言葉がある。「学君のように(ここへ)楽しんで来る人はいないよ」。そして「福祉サービスで来てもらうのは、事務処理が大変です。介護保険に入ってください」。所長さんの思いやりだった。そのほか毎年、年賀のご挨拶と会社のカレンダーを送ってくださる。
昨年の4月下旬、所長さんと再会の機会に恵まれた。介護保険を使っての利用だ。だけど、長い入院生活を終えた直後で、身体は馴染めなかった。左半身まひの状態だと、一般風呂へ入るには、2人ないし3人のスタッフが要る。また、医師のアドバイスである、常駐の理学療法士がいない。もう一つの法人ショート先と入所手続きをしていたので、様子見に気持ちを切り替えた。それから8ヵ月を経て、介護会社のショート利用をしてみる。心得は踏まえていたが、夜中の1時間半ごとにケアを受けるのは、ちょっぴり身に応えた。洋式トイレに行くとしたなら、さらにハードルが高くなりそう。
1週間余りの滞在後帰宅すると、ケアマネさんと親戚の方が待っていた。リハビリを受けるための再入院について、話し合う場である。「ショートはどうでしたか?。宮脇さんにとって、少しずつ普通の生活に近づけるのがリハビリですよ」と、ケアマネさんはきっぱり。何事も起こらなかったかのように話が済んだ。 法人施設でも、利用者の自宅復帰を目指しているに何ら変わりはない。けれど、新型コロナウイルスを理由付けに、一定の期間部屋から一歩も出さない事実上、自由を制限しているショート先へ行くのは、ちょっと考えてしまう。なぜなら、感染対策を講じる取り組みがはっきり分からず、説明もあいまいだ。あえて言うと、受け入れが可能な限り、深いお付き合いがあるところで、お金を費やすのが妥当だと思う。 本年の目標は、ケアマネさんの助言を心の支えに、普通の暮らしに溶け込んでいくことだろう。
2023/02/09
3ヵ月くらい前から、女性に交じって白一点、男性ヘルパーさんのケアを受けている。訪問介護は、収入面で不向きな職種らしく、働き盛りの男性には注目されないのかもしれない。だから、わが家に来ている男性は白髪のおじいさん。その長い髪をていねいに束ね、リボンで縛っている。さらにピンクのズボンを穿いたり、派手な色の服装は、まるで女装そのもの。低い声は隠せないから 、黙って介助をしているのか。ここまでやると高齢男性利用者は、女性と見間違えやすいかな?。試しに話してみた。「家(うち)に来るときは、普段着でよいですよ」。けれど、明確な返事は聞けずに、さっさと帰ってしまった。このときは、つぎの訪問宅へ向かう予定があったそうだ。のちも、身支度に変わりはない。
朝、寝室とリビングのカーテンを開け、束ねひもで縛る。ディサービスの日、服装や荷物の点検を忘れない。尿が漏れないよう、しっかりとパットを当てる。減塩に気を配る食事づくり。きめ細かな支援は、女性ヘルパーさんならではだ。一日の終わりは午後9時過ぎ、就眠支援でヘルパーさんに来てもらう。ある夜、白髪のおじいさんから「これから家に帰って一杯やるんやァ〜」と言われ、自分も「ご苦労さん。またお願いします」と返事をする。同性としての、会話も生まれる。
「ハローCQこちらは…」で始まるアマチュア無線。テレビアンテナじゃない、形いろいろな空中線を、鉄塔の上に設置したりする愛好家だ。近所のみなさんからは「トラック野郎もやっている無線だね」って、一呼吸おかれることしばしば。こちらに向かって「2メータバンド(周波数○○MHz)で交信したな」と、訪問介護の際に教えてくれた。まだ3ヵ月しか経ってないが、親しみやすくなる。
お願いすると、ちゃんとやってくれる白髪のおじいさん。黙っていれば「ハイ、じゃあまたね」の、決まりセリフである。まじめな男性はまだ多いみたい。白髪のおじいさんこと男性ヘルパーさんへ「血圧が高めで降圧剤を服用しているって言っていただろ。帰宅しての一杯は控えめにできるかなぁ。これからもお元気で顔を見せてください」無線仲間より。
2023/02/26
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